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今宵、神楽坂で

第二十三号(2021年07月)

『今宵、神楽坂で』 最終回によせて

2021年07月28日 01:04 by kneisan2011

 さて本ウェブ・マガジン『今宵、神楽坂で』も最終回となりました。ということで今回はここまで“何とか”運営して参りました事務方3者による〆の鼎談を掲載いたします。

 

 

 

根井 いやあ、何とか1年やってこられましたね。お疲れ様でした。昨年の8月にスタートしたときは1年後まで続けられるか大いに不安でしたけど。

 

松永 ウェブ・マガジンのプラット・フォーム探しから始まって登録や情報共有なんかも苦労しましたよね。なにせ馴れないことだらけでしたから。

 

坂口 何より懸案だったのはコンテンツ。誰が何をどう書けばいいのか、見当もつかなかったですからね。読者の方にストレスなく読んでいただける分量はどのくらいか、とかとか。出版社勤めの経験のある根井さんがいてラッキーでしたよ。

 

根井 でしょ。私は編集業務をしていたわけじゃなくて営業職でしたけど。まあ25年もいれば大体のことはわかっちゃうもんなんですよ。自分で言うのも何だけど年の功です。正直言うと私も1年・12か月五里霧中の状況でやってきました。でもそれぞれのお店の皆さんに楽しい文章を寄せてもらうことが出来たのは本当によかった。

 

松永 そうですね。そして今回ぼくたちの〈SAVE BARS in KAGURAZAKA〉に参加した店舗のインタビュー記事はなかなか良かったんじゃないかな。皆さんのお店のヒストリーやストーリーは興味が尽きなかったです。

 

 

坂口 そうですね。お店やお酒などの情報はともかく、店主の考え方や姿勢、生き様なんかを窺い知ることができました。

 

根井 いやあ、私も勉強になりました。その方の人生の来し方、現在仕事に向き合う「思想」などについていつもワクワクしながらお話を聞いていました。人に歴史あり、ってつくづく感じましたね。まあ年齢的に一番歴史があるのは私だけど(笑)。それと当たり前だけど、皆ご自身のお店を守り、発信していくために真剣だったですね。妥協しないというか。ストイックささえ感じました。一方でお客さんに対する眼差しは温かくて、気遣いをしている姿もよく伝わってきました。

 

松永 そうでした。でも現在終わりの見えない新型コロナ禍の中で、僕たちだけでなく世の中全ての飲食店がそれまで当然にしていたパフォーマンスを断ち切られてしまいました。これはとても辛いです。支援してくだった方へのリターンでドリンク・チケットを発行しましたが、東京都からの営業制約の要請でチケットが使えない時期も長くにわたりました。

 

坂口 チケットを持っている方で6割くらいの人はまだ使っていないんじゃないかな。

 

根井 うちもそうですね。なにしろ今回のコロナ渦で我々に対する休業要請や営業時短の要請は2020年4月16日から始まり、計算したんですけど2020年中は118日間、今年は現在要請が出されている期間の8月22日までの間で234日間になります。合計すれば新型コロナ感染拡大が本格的に始まってから352日間、我々は営業の自由を制限されいるわけです。約1年間ですよ。前代未聞の事態です。

 

 

松永 ぼくら、いやお客さんと共に築いてきたバー文化のあり方がコロナ禍において変わりましたね。非日常を楽しむためのバーで不意に時間を気にしなければならなくなってしまい、さらに今まで通りに会話が出来なくなってしまいました。声量の抑制やディスタンスなどによって。

 

坂口 本当に元に戻れるのか、不安になってしまいますね。

 

根井 ところでこの1年半はどうでしたか? 何を思い、どう過ごしてきましたか?

 

松永 そうですね。昨年春コロナ渦が騒がれ始めたころは、まさかこんなに長期化するとは思わなかったですね。今現在よりはるかに少ない感染者数で五輪の開催を1年延期と言っていましたからね。2020年のうちは春から妙な時間が流れて、表現はともかく珍しい体験をしているなという気分でしたね。それがダラダラと続きあっという間に2021年になったのだけど、今年になってから時間の経つのがスローになった気がします。

 

坂口 たぶん、この状況下での生活に馴れてしまって日常の思考も行動もフラットになってしまったからなんだろうね。

 

 

根井 なるほど。時短営業や休業になると、人(お客さん)や日常の中のイレギュラーな出来事に遭う機会も減りますからね。アクティビティの波が穏やかになる。

 

松永 そう、だからこういう環境になってから僕はたとえばメシなんかもコンビニ弁当は極力避けてます。毎日コンビニメシになったら収容所生活ですよ。あの無機質な感じがどうも苦手で。意地でもごはんは作るようにしています。

 

根井 それはわかります。おいしいと思うんだけど長続きしないですよね。私は昨年春の休業のときは、ランチは毎日ファミレスのワンコイン・ランチ。会計のたびにクーポン券くれるのでそれをせっせと使ってました。節約もしなけりゃいけないしね。内容も悪くないんだよ。でもあるとき卒業しました。そのあとは神楽坂でテイクアウトをやっているお店のお弁当を買うようになりました。いろんな店で個性的なお弁当買うのは楽しいし、知っているお店だと会話もあるじゃない? そういうの大事だなと思いましたね。

 

坂口 僕は店で自炊しています。

 

根井 ちなみに坂口さんはこの間どんな生活をしていたのですか? 髪もかなり伸びたようだけど。Tシャツ生活も長くなったよね。

 

坂口 はい。髪は2019年12月から切っていません。Tシャツ生活は丸2年になりました。

 

 

一同 えっ!

 

坂口 起床するとまずジムで走ってストレッチ、シャワー浴びて店にゆき、植木に水、水槽のメダカにエサをやり、卵から孵った子どもメダカを観察します。そのあと自炊して食事です。メダカとはコミュニケーションできるようになりました。

 

根井 ふうーん、そうなんだ。無限君はどうですか?

 

松永 筋トレして映画やドラマ観てメシ作って食べる。店の方には2、3日に一度は来ていました。郵便物の確認をしたり、換気をしたり。

 

根井 私は朝ゆっくり目に起きて、ラジオ体操の第一第二をこなした後ネットをチェックして前日の日記を書いて少し本を読んで、今年になってからは地元の飲食店でランチをすることが多いですね。そのあと高齢の両親の様子をうかがいに行き、午後は自転車で毎日店に通っています。店内の空気を入れ換えて本棚の整理とか掃除ですね。狭いんだけど限りなく掃除できるんですよ。才能みたい。

 

 

松永 現時点(7/12以降)は東京では「酒なしで8時閉店」でしょ。これではバーは休むしかないですよね。でもさっき言ったように全くお店に来ないわけにもいかない。家もそうでしょ、住人のいなくなった家は急速に元気を失い古びれていきますよね。お客さんが来ない店はどんどん色褪せていくんです。だからいつでもエンジンがかかるように整備しておく。それはバーテンダーや料理人の頭と身体もそうです。

 

坂口 そうですね。僕も庭をきれいにしたり、コールドテーブルを新しく入れ替えたり、旅に出たり。

 

松永 え、旅ですか?

 

坂口 そう、別府に知り合いがいてね。向こうで車借りて南九州の方まで行ったんだよね。鹿児島にうちと同じ名前の「MORRY」というバーがあるのを見つけてね、表敬訪問しようと思ったわけ。辿り着いたら若者が集うカラオケ・ダーツ・バーでした。

 

根井 探検バーじゃなかったんだね(笑)。 

 

松永 たまに外でお客さんに会うと言われます。「お店やれなくて大変でしょ」って。お客さんの方こそ、飲みに行けないストレスが相当にあるはずなのに。本当申し訳なく思います。

 

 

根井 今回クラウド・ファンディングに参加した『Bar Tarrow’s』の中村さんも言っていました。「あるとき、『どこもかしくも休業の貼り紙ばかりで寂しいな』と一人のお客さんに言われてそういうのはよくないな、と思いました。誰もいない酒場は寂しい。自分の酒場に自分がいないのは寂しいことだ」と

   ところで昨年春「緊急事態宣言」が出されて店を閉めざるを得なかったときは不安しかなかったですね。休業すれば売上はゼロになるわけだから補償とセットでないと受け入れられないけど、それはどういう手続きをしなければならなくていつ貰えるのかも分からなかったからね。実際支給は遅れ遅れだったし、その間も固定費は出ていくし自分と妻の生活費も必要だし。でも小さなチェーン店や、数人雇っている個人店などは小さな私の店などとは比較にならないくらい深刻です。協力金の支給額については当初からちゃんと設計するべきだったと思いますね。うちはテイクアウト弁当をやったりもしていたけれど楽観は全くありませんでした。現在(7月時点)も長期の休業を余儀なくされているわけだけど、この先店を再開できたとして昔のようにお客さんが戻ってきてくれるか不安は尽きません。

 

坂口 でも再開の日を見据えていつでも元に戻れるように万全の気力でいくしかありませんね。

 

松永 そうですね。また皆さんにリアルに会えるのを楽しみにしています。

 

根井 はい。気持ちは全く同じです。

 

 

 

再び何でもない時間が戻ってきて欲しいです。今回クラウド・ファンディングに参加した店を支援してくださった皆さんを始め、これまで私たちの店に来てくださったお客さんは宝ものです。ウェブ・マガジン『今宵、神楽坂で』は今回で1年間の配信を終了しますが、悲しいことにまだ新型コロナ感染のパンデミックは終息していません。この号をお届けできる頃は東京五輪も始まっていることでしょう。緊急事態宣言下でのオリンピック・パラリンピック開催という超巨大な賭けはどう転ぶのか。感染拡大に拍車がかからないことを願ってやみません。2021年は残すところあと5か月。年末にはビール・ジョッキをぶつけ合いながら、「いやあ、この2年間は一体なんだったんだろうね」と屈託のない笑いが戻ってくることを心から祈りたいと思います。まだちょっと無理かもしれませんけどね。

 

 希望はいつでも胸に。

 

 

 

Bar 夢幻  松永 無限

 

bar Morrlü  坂口 篤史

 

Book & Bar 余白  根井 浩一・純子

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