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今宵、神楽坂で

第二十二号 (2021年07月)

三蔵法師の旅 ~平成西遊記~ ⑫

2021年07月08日 16:41 by morrly

 トルファン市(吐魯番市)は、中国新疆ウイグル自治区に位置する地級市(地級市は市と称するものの、都市部と周辺の農村部を含む比較的大きな行政単位である。)で、市名はウイグル語で「人と物が豊かな地域」を意味し、天山山脈東部山間の盆地、トルファン盆地の中央に位置する。古くより交通の要所であり、シルクロードの要衝として栄えた。トルファンは海抜がマイナスの場所がほとんどであり、トルファン市街のそばにあるアイディン湖の水面は海抜-154mで、中国で最も低いところにある。昔から葡萄が有名で現在ではワインの一大産地になっている。夏には歩道の頭上に葡萄棚が広がっており、我々に日陰と共に果実を提供してくれた。

 

 

 次の日には早速、シルクロード雑学大学主宰の長澤さんに紹介してもらった砂療所のマリアさんとお会いし、ロバ車購入について相談する。(砂療所とは、砂山に人が横たわれるくらいの穴を掘り、人が横たわった後、その上に砂をかけて覆う。15分程入り、15分程休憩、そしてまた砂の中に入る。という砂風呂に似たトルファン特有の治療法を行っている施設である。)人民公社の方を百元で雇い、トルファンでは毎週日曜日開かれるバザールでロバ車を調達するこことなった。

 

 

 当日、ワイリーという人民公社の方と我々二人の三人でバザールへと向かう。バザールは町の外れの一角で開かれており、着いた頃には、既に賑わっていた。やはりこういう場所はわくわくする。きちんと管理されているらしく、売るものによって場所が分かれている。我々は他の物には目もくれず、一目散にロバ車会場へ。ロバ車会場は大体野球の内野くらいの広さをレンガの壁で囲った場所であり、そのなかで売買が行われていた。ロバと飼い主のペアが並んでいるわけでもなく、ごちゃごちゃになって突っ立っているだけだった。我々も早速その中に入り周りを見回す。すると奥の壁際に立つ一頭がすぐ目についた。他のロバよりも背が高く、毛並みも美しい。その他のロバはどことなく哀愁が漂っていたが、このロバには覇気が感じられた。毛並みを見ることは勿論、お尻を叩いて反応速度をみたり、実際に走らせたり、奥歯のすり減り具合をみて年齢を推測した。体力的にピーク時の5歳の雄だろうということで、ワイリーに持ち主と交渉をしてもらい、結局2,200元で購入。その後、我々と荷物が載る車を500元で購入した。この時のロバの相場としては、小型(高さ1m前後)で約600元、中型(1.2M前後)で約1,000元、大型(1.5m前後)で約1,700元。一般的に西へ西へと行くほど安くなり、年齢が若いほど高くなるらしい。相場よりも高い値であることは承知であったが、他のロバと比較にならない程その姿は大きく逞しかったのでその値段には納得して支払った。

 

 

 ロバ購入後は、出発するまでの数日、砂療所にロバを預かってもらい我々は観光や、ロバ車旅用の装備調達を行なった。主な新規調達品目は、ロバ車用タイヤのチューブ、餌を作るバケツ、ロバの餌-サマン(干し草ものを、麻袋ひとつで5元、麻袋は別売2元)、コナック(高粱、白く丸い粒、直径5㎜程の粒はスタミナを落とすので、高くても10㎜程のものを与えた方がいいらしい。1.5元/㎏)、キベック(ロバの餌、クリーム色の謎の粉末、2元/㎏)、50ℓ程の水タンク等々である。自転車はホテルで知り合った人間に100元で売りさばいた。

 

 

 

 我々は観光をしながらもロバの様子を見る為、毎日砂療所へ通った。何度か顔を出すうち、砂療所の所員の人々や患者の人々とも少しずつ話すようになっていったのだが、そこでナーナというウイグル人女性に出会った。彼女はアルタイというトルファンから北へ約600km離れている町から親の治療のためにここまで来ていた。私が砂療所へ行くといつも「こんにちは」と日本語で言って来てくれ、木陰でお互い拙い標準語を使いながら話をした。暑さで赤らんだ肌にうっすらと浮かぶ透き通った汗が、木漏れ日に当たってキラキラと輝いていた。出発当日、彼女たちもその日にアルタイへ帰るとのことだった。別れ際、彼女が「さよなら」と言って走っていった。私は一瞬言葉を失ったが、私も「さよなら」と告げた。そして将来喫茶店を開いたら『ナーナ』と名付けようと心に決めたのである。(つづく)

 

bar Morrlü 坂口 篤史

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