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今宵、神楽坂で

第二十一号(2021年06月)

ジンのはなし

2021年06月24日 15:34 by kneisan2011

 

【ジンってどんなお酒?】

 

11世紀ごろ、イタリアではすでにジュ二パーベリーの香味を主体とした蒸留酒が造られていたとされる。ジュ二パーベリーとは、ジンには絶対に欠かせないボタニカルである。ヒノキ科、ビャクシン属(柏槙と書き別名イブキ)のジュ二パー。日本名セイヨウネズ(杜松)。ジュニパーベリーとはその青い実のこと。そして17世紀半ば、ライデン大学(オランダ)の医師、フランシスクス・シルヴィウス博士によって、植民地での熱病の特効薬として解熱、利尿に効果のある薬酒が開発された。そう、ジンはもともと薬酒だった。彼は脳解剖学研究でも有名で、現代の医療関係者の間でも名が知られている。前頭葉と側頭葉の溝(みぞ)を外側溝(こう)別名シルヴィウス溝(こう)と呼ばれるそうだ。

 

 オランダでは「ジン」ではなく「ジュネバ」と呼ばれ、味わいは普段我々が慣れ親しんでいるドライジンとは異なり、大麦麦芽を多く使用するため穀物の風味が強い。吟香のある米焼酎に似ている。個人的には冷凍庫でキリッと冷やして飲むのも良いが、お湯割りも悪くない。1689年に英国でウイリアムⅢ世が国王に即位すると共に、ジュネバはロンドンで爆発的に流行し、名称は短縮され「ジン」と呼ばれるようになった。

 

 

【ジンの規定と一大ブーム】

 

 EU でジンは以下のように定められている。

 

 ①ジュ二パーベリーの香りを主体とする。

 ②農作物由来のアルコールをベース・スピリッツとする。

 ③瓶詰めアルコール度数は37.5%以上。

 

 上記から更に3つのカテゴリーに分けられ、さらに各カテゴリーに3つ以上の条件が付く。(今回は記載を控える。)

 

昨今、酒税法の製造容量緩和(少量生産が認められる)により「クラフトビール」が爆発的人気を博している。そしてジンにもその潮流はきている。かつて大英帝国の首都だったロンドンにはジンクレイズ「ジン狂騒曲」というジンをめぐる大騒動があった。市中のいたるところにジンを売る店、飲ませる店がひしめき合い、庶民の飲み物として大流行。しかしアル中の急増や犯罪が社会問題となり、多くの規制が課せられることになってしまう。それから150年。再び今、イギリスだけでなく世界中で新たな“狂騒曲”とでも呼ぶべき「クラフトジン」の大ブームが起きている。それはかつての負のイメージではなく、本来ジンが持っているクラフトマンシップ、そしてワクワクするような楽しみを伴っての一大ジンブームだ。

 

現在、ジンフェスティバルやシンポジウム等、ジンに関するイベントもいろいろ開催されている。コロナ禍が過ぎ去り、再開されることを願うばかりだ。ところで星の数ほど出回っているジン。当たりもあれば外れもある。と同時にスタンダード・ジンのコスパの良さにも気付かされる。私個人が好むジンは「ボンベイサファイア」(1987年発売)だ。このジンは蒸気抽出法を採用している(ヴェイパーインフュージョン)。それは蒸留器のヘッド部に金属製のバスケットを設置し、10種類のボタニカルを詰めて蒸留する方法である。蒸気がバスケットを通過する事により、軽やかで華やかなフレーバーのジンが得られる。味良し!値段良し!見ため良し!日本にも同製法のジンがある。広島の「桜尾」。牡蠣殻を含む17種の広島県産ボタニカルを使用。味わいもどこかボンベイサファイアを彷彿させる。

 

 

【トニックウォーターとは?】

 

ジンベースで代表的カクテルといえば「ジントニック」。レシピは氷を入れたタンブラーにジン+トニックウォーター+ライム(お好みで炭酸やビターを入れる)。さて炭酸水とトニックウォーターの違い、ご存知ない方が結構いらっしゃるので説明を。炭酸水は炭酸ガスを含む水の事で甘みはない。トニックウォーターとは、炭酸水に香味成分や柑橘系のエキス、糖分を加えた清涼飲料水だ。誕生は200年前。苦みの軸はアンデス山脈原産のキナノキの樹皮キニーネ。合成薬が開発される1930年頃まで“マラリア”に効く唯一の薬であった。ペリー総督夫人が現地で服用し、マラリアから回復したという逸話がある。抽出されるアルカロイドが病に効いたようだ。ただキニーネは何せ苦い。英国兵が飲みやすくする為に水に溶き甘み等を加えたのがトニックウォーターの最初で、さらに軍に配給されていたジンを加えたのがジントニックの始まりだ。実は、国内で売られているトニックウォーターに、キニーネの抽出物は使われていない(フィーバーツリー以外は)。理由は、一定の味、生産量保持のため。以前、イギリスやインドで販売されているシュエップスはキニーネが抽出されていると聞き入手し飲み比べたが、国産の方が苦みと炭酸が強く旨かった。国産のシュエップストニックウォーターはキニーネが使われているがごとく味が表現されている。開発した日本コカコーラの技術力は高い。ジンもさる事ながら、トニックウォーターの種類も増えつつあるので、自分好みの「ジントニック」の組み合わせを見つけるのもカクテル遊びのひとつだ。

 

 

私がバーテンダーになる以前のジンの主な産地といえば、オランダ、イギリス、ドイツ等で、ベース・スピリッツの原料は主に、大麦、小麦、ライ麦、トウモロコシ等の穀物+ボタニカルであったが、今や世界中で造られる様になったジン。規定のない国では、様々な原料やボタニカルが使われている。えっと思うスピリッツ原料もある。

 

サトウキビ(ラム?)

竜舌蘭(テキーラ?)

ブドウ(ブランデー?)

りんご(カルバドス?)

 

 最近のジンの定義の広がりには驚かされる。ボタニカルは「草・根・木・皮」果実、生花に留まらず、昆布、牡蠣殻等、海の幸やトリュフまで。そして蒸留後のジンをシェリー樽や熟成後のウイスキー樽に詰めて後熟させる等、可能性は無限大だ。今後の進化にも注目し続けたい。

 

 最後にひとつ本音を言わせてもらうと、クラフトジンは高価傾向にある為、もうちょっとお求め易い価格にしてもらいたい。

 

 

Bar Sylvius 田淵 無

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