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今宵、神楽坂で

第十八号(2021年05月)

アクアヴィットを知っていますか?

2021年05月12日 11:59 by kneisan2011

この仕事を始めるまで「アクアヴィット」という酒を知らなかった。ドイツ北部から北欧・スカンジナビア3国(デンマーク、スェーデン、ノルウェー)それとアイスランドで製造され、愛飲されている蒸留酒だ(※)。ジャガイモが主原料でキャラウェイ・シードをはじめ様々な香草で味付されている。そういえば『名探偵 コナン』の最大の敵「黒の組織」の中にアクアビットというコード・ネームを持つ男がいたな。実は彼は「黒の組織」への潜入捜査員で正体がバレて消されてしまったけど。

 

 

さてある日、私の店に在東京の某国の大使館に勤めていたという方が見え、その後お酒を何本か譲り受けたことがあった。それはいろんな国・地域の酒類だった。仕事の上で様々な国の人たちとの交流があったということだ。ジン、ラム、ウオトカ、テキーラ、カシャッサ、ブランデー、アブサン、パスティス、ラク‥。そんな中にそれ「アクアヴィット」があったのだ。何だろう、これ。キャップを開けて鼻を近づけると、独特なアロマ(匂い)を感じた。反対側からボトルを覗き込むとラベルの裏側に地図が描いてある。オーストラリアあたりの地図だ。北欧の酒なのにどうしてオセアニアなの?と不思議に思った。そのワケは後に知ることになる。ドリンク・メニューにこの酒を入れていたら、「マスター、このアクアヴィットって何?」 と聞いてくる常連さんが何人かいて、これこれしかじかと説明をした上で「でもちょいとクセのある香味ですよ。飲んでみます? 気に入るかどうかはお客さん次第だけど」と言ってソーダで割って出した。そうして約3名ほどがアクアヴィットの虜になった。現在でもその3名の大切なお客さんのために月に2本、洋酒専門店に買いに行っている。

 

 

 

アクアヴィットの原材料はジャガイモだ。南米アンデス山脈がルーツのジャガイモは、ヨーロッパではスペイン人が15世紀の終わりに持ち帰ったのがきっかけで広まっていった。(農林水産省のサイトより) その後北欧にジャガイモが辿り着いたのは18世紀半ばということだ。そしてこれを原料として今と同じアクアヴィットが生産されるようになった。それ以前は原料に穀物が使用されていたらしい。余談だけど、日本にジャガイモが入ってきたのは17世紀初頭、インドネシアのジャカルタから(ジャカルタから来たイモ⇒じゃがたらイモ⇒ジャガイモ)やって来た。しかし日本ではジャガイモを使って酒をつくることはなくそののちに琉球国から入ってきたサツマイモを原料に18世紀半ばまでに芋焼酎が造られるようになった。サツマイモの原産地はメキシコを中心とする熱帯アメリカだが薩摩経由できたのでサツマイモである。ちなみにサツマイモを原料とする酒は世界でも珍しいらしい。

 

 

さてアクアヴィットのこの香り、この味わいはどう説明すればいいのだろう。キーワードはキャラウェイというセリ科の植物。葉はセロリに似た味がする。ヨーロッパではサラダやスープ、ザワークラウトなどに用いられる。イタリアのリキュール「カンパリ」の材料でもある。和名はヒメウイキョウ。爽やかな香り、南仏のアニス系の酒パスティスなどと比べて穏やかで甘みとほろ苦さがある。いろいろと調べていたらこのキャラウェイには古来、人と人、人とモノをつなぎ留める力があると信じられてきたという文章を見つけた。「キャラウェイの種子を入れておくとその品物が盗まれない」「恋人の持ち物に忍ばせておくと浮気防止の効力がある」などなど。花言葉は「迷わぬ愛」だそうだ。

 

 

ところで通常アクアヴィットは樽熟成を行わない。しかし古いシェリー樽にアクアヴィットを詰めてオーストラリアの会社に納品した船があった。ところがよんどころなき事情があって先方の港で荷を下ろすことができず、再び本国に戻って来なくてはならなくなった。するとその長い船旅の間にアクアヴィットは見事に熟成し、琥珀色した芳醇な酒に変身していたという。こうして航海によって2回赤道を通過したアクアヴィットには「リニア」(赤道という意味)の名が付けられている。それでボトルには航海の記録(地図)が付されているわけである。

 

 

アクアヴィットの主要銘柄は、「オールボー」(デンマーク)、「スコーネ」(スウェーデン)、「ギルド」「ルニエ」(ノルウェー)、「ボンマルンダー」(ドイツ)などがある。

 

貴方がもし「迷わぬ愛」を見つけたら、よければどうぞパートナーとグラスを傾けてください。BARにはまずアクアヴィットを置いてございます。またアクアヴィットを使ったカクテルもあります。バーテンダーにお尋ねください。

 

※)日本の百科事典にもアクアビットの項目が立っている。それによると、

〈スカンジナビア諸国の国民酒ともいうべき無色の蒸留酒。〈生命の水〉を意味するラテン語aqua vitae の転じた語で、スェーデン、ノルウェーでaquavit、デンマークでaqvavitなどとつづる。別名をシュナップスといい、ドイツ、オランダでも造られる。スェーデンでは15世紀から造られており、デンマークではそれ以前のものと推定される蒸留器が発掘されたという。ジャガイモを原料としてこれを麦芽で糖化・発酵後、精留して得たスピリッツに、キャラウェーを主にしてコリアンダー、フェンネルその他の香草類、レモンやオレンジのピールなどを加えて再度蒸溜する。着色をきらうので、樽に貯蔵しての熟成は行わない。アルコール分40%前後。デンマークではかつてはライ麦、小麦を原料としていたがいまはほとんどジャガイモを用いている。味はデンマークのものが辛口、スウェーデンは甘口、ノルウェーはその中間といった傾向を持つ。冷やしてストレートで飲むことが多いが、カクテルベースとしても用いられる。(平凡社・大百科事典1984年発行)〉

 

 

Book  Bar 余白  根井浩一

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