『bar Morrlü』
■神楽坂の秘境にある探検バー
今回のバー巡りは『bar Morrlü』ということで店主の坂口さんからショップカードを渡された。表には道路標識風のマーク、裏には古めかしい地図が描かれていた。「これを解読してお店に向かうとこからが『bar Morrlü』なんです。」と、まるで「家に帰るまでが遠足なんです。」とでもいうかのように坂口さんは薄ら笑いを浮かべて言った。
取材当日、この地図を頼りに神楽坂下から神楽坂を登っていく。思ったより急な坂で途中息切れしてしまった。その地図によるとここは“嘆きの神楽坂”らしい。自分の体力の無さを体感するから“嘆き”なのか?謎は深まるばかりだが、不思議と一度そう聞いてしまうと“嘆きの神楽坂”が頭にこびりついてしょうがない。
毘沙門天の善国寺を通り過ぎ、文房具屋の相馬屋さんのところから地蔵坂を登っていく。この道は今はなき牛込城へと続く由緒ある通りだ。次の関門の『試練の洞窟』を発見するのには手こずった。確かに入っていくのには勇気がいる。そしてその先の『迷いの回廊』。峡谷そのものだ。ここでも先に行くべきか行かざるべきか試される。『ともしび』を探しながら進むと、そこには神楽坂の喧噪からは想像できない程の静寂さと植物が支配する世界であった。これが“神楽坂の秘境”と言われる所以であろう。
無事お店に辿り着いた時にはもう夜も遅かった。坂口さんが優しい笑顔で迎えてくれた。早速「この地図はどこで手に入れたんですか?」と尋ねてみた。「親しい友人が手紙で送ってくれたんです。」淡々と答えた坂口さんだったが、一瞬悲しそうな表情になったのを私は見逃さなかった。
※その地図と手紙はお店のHPに載っているのでこちらから見ることが出来ます。
■『Morrlü』はどう読むのか?
この店名は“モーリー”と読む。ウムラウトがあるところからドイツ語かと思いきや、語尾のlüは中国語のピン音(発音記号)ということだ。坂口さんが、中国語の毛驢(ピン音 mao lü:マウォルウィー、意味はロバ)というのを聞いて自分のロバに“モーリー”と名付けたところから来ている。
語頭のMorrはモーに合わせて付けたということだが、“mo”は動物を、“rrlü”は人間が両手でカモン!と招いているところを表す象形文字になっている。ペットOKというのも頷ける。
フランスのラスコー洞窟の壁画を参考にしているという。
■この店を何故開いたか?
坂口さんは大学時代の1996年に、三蔵法師の足跡を辿る旅に出た。第一回目として西安からクチャまでの3200kmを自転車とロバ車で踏破したのだが、その時のお供のロバがモーリーだったのである。人間二人と水、食料など200キロあまりの物資を載せた荷車をモーリーに牽かせ、西へ西へと来る日も来る日も鞭を叩き続けた。購入した時にはぷっくりとしていたモーリーのお腹が、最後にはあばら骨が浮く程ガリガリになっていた。この時のモーリーに対する仕打ちが未だに心の片隅に残っているという。「この店は私の贖罪なんです。」と坂口さんは語る。通常のバーとは違う雰囲気を醸し出しているのはこれが理由なのかもしれない。
店の中にひと際大きく飾られているモーリーは一体どう思っているのか。次回来るときは、一度グラスを傾けながら語り合ってみよう。
お客様の笑い声が鎮魂歌となり、天国のモーリーに届いていることを祈る。
<Bar Morrlü>
162-0828 新宿区袋町2 鈴木ビル1-C
Tel 090-5772-1185
月 ~ 日 18:00 ~ 02:00
(現在2021年4月時点は18:00 ~ 21:00)
不定休
charge 500円
喫煙可 WIFI環境あり
ペット OK
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