『神楽坂 BASIC』(後篇)
・くまモンのミラクル人生! (~2~)
「今はもうないですけど、神楽坂下に<わらっとこ>というイケメン兄弟がやっていたダイニング・バーがあって、しょっちゅう通っていましたね。」頻繁に通えばお店で飲み友ができる。その飲み友の中に〈神楽坂 BASIC〉のマネージャーがいて、うちで働かないか?と声をかけられたのだ。洋菓子店には「熊本に帰ります」と言って辞め、間髪入れず〈BASIC〉へ。朝までやっている賑やかで明るい雰囲気の店。「その頃からお客さんは出版社の方が多かったですね。春になると新入社員さんを連れてきてくれるんです。」お客さんの層や空気感は今も大きく変わらない。いろんな人たちと話ができる、働き甲斐のある職場。だが、しばらくしてアルバイトが次々に辞めてしまい、誰もいなくなってしまった。気が付けば瀬口さんは社員に登用されていた。お店の切り盛りとマネージメントを一人でこなす(新たにアルバイトさんも入れながら)ことになり、やがてオーナーは経営から手を引いた。そして2017年、なんと瀬口さんは〈神楽坂 BASIC〉を単独で買い取ったのだった。5年前まで「●●焼き」を焼き続けていたくまモンは神楽坂のBARの一国一城の主になった。27歳の若さで! これをミラクルと言わずに何と言う?
・瀬口さんにとって、お店とは? 仕事とは?
瀬口さんにとってお店って何ですか? と聞いたら「考えたこともありません。お店は自分にとっても生活の一部です。」と返ってきた。「ここにやって来るみなさんにとって落ち着ける場所にしたいんです。私はお母さんみたいな存在。凹んでやって来る方がいれば目に見えない傷を癒したい。簡単じゃないけど。」 <神楽坂 BASIC>は神楽坂の保健室なのだった。(ヘンな意味ではありませんよ) じゃあもう一つ、これは譲れないということはありますか?と尋ねると「何もない」とくまモンは言った。瀬口さんと話しているより、くまモンと会話している気分になってきた。じゃあ、この仕事をしていてよかったなと思うことは?とさらに聞くと「一つの業界に就職していたら出会える人は限られていたかもしれないですよね。けど、この仕事はほんとうにいろいろな人に出会える。そこが魅力です。誰が結婚した、彼女ができた、子どもが生まれたとか、周りの人たちの生活が変わっていくのを見ているのが楽しいですね。」
・神楽坂と郷里・熊本のこと
神楽坂は綺麗な町。ゴミは落ちてないし、電柱は地中に埋まっているし、優しい人が多い。優しい人が多いということは住みやすいということ。「私は神楽坂が大好き。でも郷里の熊本も大好きです」という。瀬口さんの郷里は熊本県北部の町・玉名市というところだ。「今年はコロナ禍で思うように帰れなかったけど、大体月一で熊本に帰ります。成田からLCCを使えば一番安いときだと往復1万円程度。向こうにいて特別なにをしているということは無いんですけどね。おばあちゃんとおしゃべりしたり、家の仕事(苺とトマトを作っている)の様子のことなんか聞いたりですね。うちの家族は仲がいいんですよ。熊本もごはんは美味しいし、住みやすいところです。町の中に昔から湯治場で有名な玉名温泉があるんですよ。<いきなり団子>はほっとするし(※2)、<玉名ラーメン>(※3)も最高ですから。」熊本へ帰りたいと思うことはありますか? の問いに「そうですね、いつかは帰りたいかな。」と一寸はにかんだ。
(※2)小麦粉をこねて作った生地の中にさつま芋と餡を入れて蒸しあげたお饅頭。お客様がいきなり来ても簡単に作れるということからこの名前があるとか。
(※3)マー油(香味野菜各種をラードで揚げてつくった香味油)と焦がしにんにくのトッピングが特徴の濃厚とんこつラーメン。玉名ラーメンはもともと久留米ラーメンが由来で、一方で熊本ラーメンのルーツといわれている。
<神楽坂 BASIC>
162-0825 新宿区神楽坂5-32 近江屋ビルB1F
Tel 03-3267-3050
営業時間 18:00 ~ 29:00 (現在2020年12月時点は27時L.O)
定休日 日・祝日
charge 500円
喫煙可 WIFI環境あり
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