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『探偵はBARにいる』かも、しれない。

2020年10月10日 21:13 by kneisan2011

ドラマや映画の中にBARは頻繁に現われる。あるいは小説やエッセイの中にも。一つのシーンや文章の起点、終点になることが少なくない。久々に会った友人とグラスを傾ける場所、恋人(愛人!)との語らい或いは密会の場所、〝取引先〟と怖い話をする場所、そして一仕事を終えて、あるいは日常の雑事から解放されて自分に戻ってゆく場所。

 

 

映画『探偵はBARにいる』(2011年9月 / 東映)で探偵の「俺」が根城にし、依頼人からの電話を待っているBARは「ケラー・オオハタ」という。札幌ススキノ交差点から歩いて5,6分のところにある(らしい)。バー・カウンターの一番隅が探偵の指定席。カウンターの上にはいつもオセロゲームの盤が置かれている。探偵がなぜここを根城にしているのかの説明はない。探偵は街を歩き、ゆくゆく仕事の依頼人になりそうな人間に会うと「俺は大抵ここのBARにいる」といって店の名刺を差し出す。

 

 

大泉洋と松田龍平が主人公の映画<探偵はBARにいる>シリーズは第3作まである。原作は東直己著の小説。最初の作品は『バーにかかってきた電話』という本をもとにしている。探偵の「俺」は、アジア最北の歓楽の町ススキノのはずれにあるビルの8Fの恐ろしく散らかった部屋に住んでいる。この映画は一人称単数の「俺」が語り部になって物語が進行する。チャンドラーのハードボイルド小説の主人公・フィリップ・マーロウの語り口である。ということは、かっこいい。けど「バーにいる探偵」の方はコミカルで、ちょっとへなちょこで、その割に格好つけていて根拠のない自信と勇気を持ち合わせている奴である。大泉洋というキャスティングはピッタリという感じだし、彼のキャラクターに小説の「俺」を近づけているふうでもある。そしてこの映画にはもう一人主役級の男がいる。「俺」の助手で運転手の高田だ。役者は松田龍平、とてもいい味をだしている。この高田(北大大学院農学部博士課程の院生で空手の達人)という男、ふだんは全くやる気がないのなのだけど、「俺」の助太刀に入るとき滅法強い。そういえば、『まほろ駅前多田便利軒』(三浦しおん原作)という映画にも松田龍平が瑛太と絶秒なコンビを組んで飄々としていたっけ。あの映画も“街のもめ事を解決する便利屋稼業”だった。

そろそろお酒の話をしなければ。探偵は朝だか午前中だか昼過ぎに目を覚ますと、服を着てビル1階の<モンデ>でまずいナポリタンとスーパー・ニッカのストレートを体に入れ、一日を始動させる。ウイスキーをガソリンのように体に入れるのだ。たいていはストレートをダブルで。夜、違う店で12オンスタンブラァになみなみと一杯というのもあった。(調べてみると12オンスというのは354,882355ミリリットル。これをストレートでって大丈夫なんだろうか。)

 

 

依頼人からの電話を待つのは<ケラー・オオハタ>だけど、ここではスーパー・ニッカは体に入れない。ちゃんとカクテルを飲んでいる。高田と飲むこともあるし、新聞社の松尾(田口トモロヲ)とだったり、地元桐原組組員の相田(松重豊)だったり、クラブ<コンチェルト>のママ・沙織(小雪)だったりと。高田はハワイアン・ライン(これはオリジナル?)を、松尾と相田はピンク・ジンを、沙織はボヘミアン・ドリームを、そして「俺」はギムレット、アラスカ、ラスティ・ネイル、ベルモット・リンスを飲むのだ。映画ではこまごまとカクテルの名前は出てこないけど、原作の小説にはほどよくカクテルの名前が散りばめられている。この登場人物たちが何故ピンク・ジンやボヘミアンやアラスカを頼むのかの説明はされないのだけど、こちらとしてはそれがどんなものなのか知りたくなる。

私はこの映画、けっこう好きだ。探偵の「俺」と高田の掛け合いとか、「俺」の軽い喋りとかC調なところとか、間抜けを装っているけど実はタフで、ぎりハードボイルドの一線から脱落していない感じがいい。そして物語の要所要所で嗜むカクテルと、クルマにガソリンを入れるみたいに体に入れるスーパー・ニッカも愛らしいのである

 

 

物語に出てくるカクテルを、偶然入ったBARでさり気なくオーダーする勇気はないけれど、いつしかトライしてみたいと企んでいる。(実はピンク・ジンは〈BAR 夢幻〉で作ってもらいました。)次はどこかでアラスカを作ってもらおう。ああ、それにしても札幌に行きたくなってきた。GoToトラベルっていつまで有効なんだろう?

 

 

Book  Bar 余白  根井浩一

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