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今宵、神楽坂で

創刊第二号(2020年8月)

脱ゆとり ~ 絶え間ない試練の日々 ~

2020年08月31日 17:23 by infinity0707
2020年08月31日 17:23 by infinity0707

神奈川県の南東端に突出する三浦半島は西に霊峰富士を望み、近くには鎌倉、逗子、城ヶ島等名所旧跡がある気候温暖で風光明媚なところです。

 

こんな素敵な場所で私は3年間の人生修行をしました。

 

陸上自衛隊少年工科学校(現在は制度と名称が変わり、『高等工科学校』)という、防衛大臣直轄の若手自衛官を養成する組織があり、ここが私の母校です。

※平成19年度陸上自衛隊観閲式の写真。手前一番右、敬礼している指揮官が自分です。

 

※写真右、勇ましく前進しているところ。

 

https://www.youtube.com/watch?v=-KClFnx28lE&feature=youtu.be

※この時の様子がYouTubeにあがっています。01:00と01:16くらいに僕が写っています。

 

平成19年4月1日実家の埼玉県から両親と車で向かう道中、絶賛反抗期中の私はほぼ口も聞かずぼんやりと窓の外を眺めていました。

中学2年の頃に親友と家出をし、必死に自転車を漕いだ道を偶然通りかかった時は、色々な記憶が蘇り一人で笑っていました。

 

日本全国から試験を合格した第53期生、総勢271名はこの日陸上自衛隊武山駐屯地に集まり、そして親と離れました。

 

中学校を卒業した15歳と高校に1年間通った16歳のみに受験資格があり、7割程の生徒は親族に自衛官がいるいわゆる'官品(かんぴん)'でした。

 

特別国家公務員として給与をもらいながら一般高校教育と自衛官としての教育・訓練を受け19歳という若さで三等陸曹という階級に昇進する。

これがこの学校の特徴であり、魅力でした。

 

私自身は自衛隊の事もよく分からず、何か同級生と違う事がしたいからという理由で受験をし合格しました。

中学時代に面倒をみてくれた広報の自衛官はたくさん魅力的な話をしてくれ、モチベーションが上がり受験を頑張る事ができました。

 

今思えば、肝心な話は何もしてくれていませんでした。

教官に超人ハルクがいるとか先輩が熱烈な指導をしてくれるとか、ラッパで起こされるとか、映画が観られるくらいの時間腕立て伏せをさせられるとか...

あと100個くらい書きたいですが、キリが無いのでやめておきましょう。

 

平成19年4月8日、入校式を終えると晴れて正式に学校の生徒として、自衛官の一員として迎えられました。

この式が終わるまでの1週間、1年生はお客様扱いをされて先輩も教官も優しく、仲の良い同期なんかもでき生活に慣れ始め、少し楽しくなっていました。

※入校式

 

人ってあんなに変わるんですね。

一瞬で周りに鬼や魔物が現れました。

何をしても怒られ、何もしなくても怒られる生活の始まりです。

 

この頃から脱柵する同期も出てきました。

脱柵とは夜中に駐屯地の柵を乗り越えて逃げ出す事なんですが、この鬼ごっこは回収率100%なので、あの時に戻れたら逃げ出した同期に教えてあげたいですね。

 

 

授業や訓練なども始まりました。

一時間目・数学

二時間目・英語

三時間目・戦闘訓練

四時間目・射撃訓練

こんな時間割は日本中探してもこの学校だけですね。

 

1日の生活の流れや授業・訓練風景なども書きたいですが、それはまた別の機会に。

 

今回のクラウドファンディングでは、たくさんの同期から支援をしてもらいました。

学校にいた頃は不遜で限られた同期としか仲良くしなかった私に、たくさんの同期が応援をしてくれました。

自衛隊を辞めてバーテンダーになり初めて気付かされたのが、自分自身の人への接し方の間違いでした。

 

※ハンドボール部に所属していた。

 

全国で忙しくしている同期に懐かしいエピソードを読んで笑ってもらいたい。

そして、支援者皆様にもこんな青春時代を送ったヤツがいるんだと知ってもらいたい。

そこで、私がいた頃の少年工科学校の出来事をいくつか紹介します。

 

まずは'ペッタンコ'のお話を。

それどこで売ってるんだ、というくらい巨大なシャモジを持っている教官がいました。

Y教官です。

彼は指導をする時、それをお尻にフルスイングするんですよ。多い時は数十回。

同期のS君を浴場で見た時、お尻だけアバターみたいな色になっていました。

多くの同期がこのありがたい指導を受け、尻アバター状態になっていました。

このフルスイングが通称ペッタンコです。

彼は有事の際もあのシャモジを持って行くんじゃないでしょうか。心強いですね。

 

お次は'ハンマーブロスS君'

火災訓練が年に数回夜に抜き打ちであるのですが、暗いグランドでその批評を教官から受けます。

みんな列になって話を聞くけど、この年くらいの男子は落ち着きが無いんですよ。

前に並ぶS君を後ろから小突くK君。

しつこかったのでしょう、S君は手に持っていたハンマーでK君の頭にお仕置きの1発。

さすがに怪我の度合いはここでは書けませんが、大事でした。

そして翌日から、S君はハンマーブロスと呼ばれる事となりその後退学。

K君、今回ご支援ありがとう。

 

お次は「お前達を許す」事件。

色々な教官がいると、指導の仕方も色々あるんです。

1年生の終わりの頃、時間を守らなかった2人が夜の点呼の時に同期全員の前に出されました。

「悪いのはこの2人ではなく、注意をしてやらなかった他全員。だから、2人以外が腕立て伏せをしろ」

もうこの頃には何を言われても動じなくなってましたね。

みんなで数を数えながら腕立て伏せ。

これが中々終わらず、しばらく続きます。

ここで教官から前にいる2人に指令が出ます。

「同期全員に、お前達を許すと言ってやれ。

それを言ったら腕立て伏せを終わらせてやる。」

人が悪いですよN教官。

「おまえたちをゆるす」

このたった9文字が前から聞こえて来るまで、時間がかかりました。

腕はプルプル、腰はガクガク。

その時の2人の心情はそれ以上に辛かった事でしょう。

 

まだまだ書きたい事だらけです。

'K君記憶喪失事件'や'T君飛び降り未遂'

'カラポ姉ちゃん争奪戦'

'下克上の前夜祭ライブ'などなど

 

神楽坂と防衛省はとても近いので、怖い自衛官がお店に来ないために最後に一言。

 

※ここに書かれている事は全てフィクションであり、登場人物は実在しません。

 

BAR夢幻 松永無限

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